甲状腺機能低下症(橋本病)と薄毛髪質の変化

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態を指し、その代表的な疾患が「橋本病(慢性甲状腺炎)」です。橋本病も自己免疫疾患の一つで、自分の免疫システムが誤って甲状腺組織を攻撃し、慢性的な炎症を引き起こすことで、甲状腺の機能が徐々に低下していきます。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝をコントロールしているため、その分泌が不足すると、体の様々な機能が低下し、髪の毛にも特徴的な変化が現れることがあります。甲状腺機能低下症による薄毛は、甲状腺機能亢進症とは異なる特徴を示します。まず、髪の毛が乾燥してパサパサになり、ツヤが失われ、もろく切れやすくなるのが一般的です。また、髪の成長が遅くなり、新しい髪が生えにくくなるため、全体的に髪のボリュームが減少し、びまん性の脱毛が見られます。特に、眉毛の外側3分の1が薄くなるのは、甲状腺機能低下症に比較的特徴的な所見とされています。髪の毛だけでなく、皮膚も乾燥しやすくなり、カサカサしたり、冷たく感じられたりすることがあります。爪も厚くもろくなったり、割れやすくなったりすることがあります。橋本病の主な症状としては、薄毛や髪質の変化以外にも、無気力、疲労感、倦怠感、体重増加(食欲は低下するにもかかわらず)、むくみ(特に顔やまぶた)、寒がり、便秘、声のかすれ、記憶力や集中力の低下、動作緩慢などが挙げられます。これらの症状はゆっくりと進行することが多く、本人も気づきにくい場合があります。もし、原因不明の薄毛や髪質の変化とともに、これらの全身症状がいくつか見られる場合は、橋本病などの甲状腺機能低下症を疑い、内科や内分泌内科を受診することが大切です。診断は、血液検査で甲状腺ホルモン(FT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)、自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)の値を調べることで行われます。甲状腺機能低下症と診断された場合、治療は主に甲状腺ホルモン薬(レボチロキシンナトリウムなど)の内服によるホルモン補充療法が行われます。適切な量の甲状腺ホルモンを補充することで、甲状腺ホルモンの値が正常化し、薄毛や髪質の変化を含む全身症状も徐々に改善していくことが期待できます。こちらも、髪の改善には時間がかかることを理解しておく必要があります。